安城市交響楽団
指揮者 服部洋樹
3月の始め、コロナによる自粛が始まり僕の予定も消えつつある中、今となっては僕が最後に舞台に立った演奏会がありました。前半の曲はショスタコーヴィチのロシア血の日曜日事件を題材にした交響曲第11番。まさに今後どうなってしまうのかという僕たちの不安を代弁する曲、その気持ちが相まってこれまでになく恐ろしい迫真の演奏でした。お客さんも少なく皆さんマスク姿。舞台上から見ても異様な光景です。後半は同じショスタコーヴィチの交響曲第12番。冒頭から息をつく間もない戦いの音楽。戦いの合間に讃美歌のようなとても美しい旋律が出てきます。これからしばらく音楽に触れることができないという予感はありました。この讃美歌が鳴ったホールでは僕と同じようにこの音楽を失う怖さと悔しさ心の中で涙した!
人が大勢いました。そして今まで当たり前だった音楽がどんなに大切な存在だったかに気が付くことになります。
実際、この1週間後には演奏会が日本から消えました。多くのオーケストラが希望をかけて夏に演奏会を移しましたがそれすらも今少しづつ消えようとしています。
しかし、今まだ多くの音楽家はあきらめていません。僕含め必死に音楽の生きる道を探しています。以前よりも音楽と真摯に向き合い、音楽に対するいつも以上に深い感情というものが芽生えています。
この音楽家というのは皆さんも該当します。音楽を共にするものはプロもアマチュアも関係ありません。
エッシェンバッハ氏が指揮をするパリ管弦楽団によるマーラー交響曲第3番の映像があります。最終楽章の副題は「愛が私たちに語ること」。この楽章が終わった後に児童合唱の子供たちが泣いている映像が一瞬流れます。このように僕たちは音楽の力を借りて、言葉以上に多くの事を語り人々を泣かせることができます。この騒動が終わった後、最後に人々が必要とするものはこうした『感動の涙』です。その時が、僕らの芸術家として、表現者としての役割を果たす時です。その時は必ず近いうちにやってきます。そして今はその時のために自分の力と音楽・芸術に対する気持ちを育てる時です。
みなさん、自分がそんな素敵な力を持っているという事を絶対に忘れないでください。その誇りをもって、またご一緒できるときを心待ちにしております。